文章置き場

二次創作小説を記録しています。原作者、公式とは関係ありません。現在はWTを中心に上げています。R18作品はピクシブのみ。

星は命を啄む(太刀川+出水)

2019/10/9 11:35
遠征先での出水と、彼に見とれてしまった兵士の話。少し残酷な話です。2時間で勢いよくスマホで書きました。
それは美しい旋律。されど残酷で無慈悲な星屑。



その兵士は平凡だった。
力もトリオン量も頭の回転も。何もかもが特徴を持たなかった。容姿でさえも。ブラックトリガーなんて夢のまた夢だ。
そんな彼はせいぜい上司に雑用でこき使われ、重要な拠点ではない砦の見回りを行なうぐらいしか仕事がなかった。
それでも良かった。大好きな星を眺める時間が取れるのだから。
時々、考える。今自分が持っている武器は古ぼけた銃だ。ただトリオンを放出するだけの、一般に出回っているありきたりの物。
夜空を見る。もし空に浮かぶ星が落ちるような武器があったら、威力も凄まじいだろうが美しい光景なのかもしれない。
星を降らす武器。
それはブラックトリガーでなければ叶わないのかもしれない。
彼は手を夜空に伸ばした。星を掴みたい。輝く星灯は心を揺さぶり離さなかった。




「おーい知らせが入ったぞ」
今日も夜空を眺めていると、同期の兵士が駆け寄ってきた。
「知らせ?」
「ああ、昼頃に東の砦が全滅したらしい」
「全滅?」
「それも生き残ったヤツの話だと、たった2人にやられたんだと」
「ここは大丈夫? 時間も経っているし、やって来たら……」
「大丈夫だろ。ブラックトリガー使いも1人待機しているし、距離も遠いからな。ま、用心だけしとけば……」
その時言葉が終わる前に、仲間の警告の笛が鳴った。
「まさか……」
兵士がぽつりと呟いた傍ら、同期は音の方向を探して明かりを左右に振る。場所はすぐにわかった。
砦の端から次々に悲鳴と人の塊が飛んだ。
今日が暗い夜なのは災いだったのだろうか。
黒いコートを着た男が1人、両手に剣を携え目で追えぬ速さで兵士たちを切り捨てていた。その男の前には、仲間はただの的に等しい。兵士が何もできず固まっていると、男はふと動きを止めた。
先ほど話に出たブラックトリガー使い。
男は強さを感じ取ったのか、ゆっくり距離を取った。そのまま沈黙が支配し続けるのかと、思わず兵士が息を飲んだ時。
男の背後で爆発が起こった。
再び悲鳴が聞こえ、砦の一部は完全に崩壊した。
「太刀川さん!」
もう1人黒いコートを纏った男が爆発をものともせず走りよってくる。
少し若く見えるその男が間違いなく砦を破壊したのだろう。
「隠れていたヤツらは今ので倒しました。これで挟み撃ちはできません」
「よくやった出水」
ブラックトリガー使いから視線をそらさぬまま、その男は褒めた。そして言った。
「時間がない。お前が決めろ」
「了解です」
それを聴き逃すほどブラックトリガー使いは愚かではない。出水と呼ばれたその男に狙いを定めて距離を詰めた。
攻撃が当たる、兵士はそう思ったが彼は戦いの読めぬ凡人だった。
太刀川と呼ばれた男が剣を1本消し片手を振ると、出水の目前に四角く光る薄いものが出現した。敵の攻撃が届く寸前、出水はそれを飛び上がって踏み、その身を高々と夜空に晒した。
そして、兵士は見た。
両腕から大きな正方形のトリオンを出し、それがあっという間に細かく空中に散らばり、出水の周囲を光で包み込む。きらきらと広がりながら。暗闇を光の粒で星の海へと世界を変える。金色の髪が夜風に揺れて同じ色の瞳がこちらを見すえたとき、思った。
-あの人は、人なんだろうか。
星空はまるで彼のために存在する、そう思わせた。
心を奪われたとき、終わりはやってきた。
出水を取り巻いていたトリオンが、合図とともに閃光となって砦のあらゆる所に放物線を描いて降り注ぐ。
あまりの光の量に、兵士は目を閉じた。そして意識を失った。



……遠くのほうで声が聞こえてくる。
「……あーこちら太刀川隊。砦は攻略した。ブラックトリガーの回収は失敗。遠征挺へ帰還する」
「もったいなかったですね。自爆しなきゃ手に入ったのに」
「とはいえ、あそこで数を減らさないとヤバい相手だったからな。……おいまだ生きている兵士がいるぞ」
足音が近づくのがわかった。自分はまだ生きているらしい。目をゆっくり開けた。
はっと息を吐く。
そこには兵士が見とれた、星を降らした男がいた。男と呼ぶには少し若いのかもしれない。聞きたいことはあった。あれは何ていう攻撃なんだと。見れば見るほど、星を紡ぐために生まれたようなそんな攻撃と容姿だった。
惜しい。彼は思った。なぜなら-
「……太刀川さん……」
「こんな子どもにも戦わせなきゃならないほど、ここは荒れているということか」
「もう助かりませんね……」
「楽にしてやれ。覚悟を決めろ」
「……了解です」
もしも。ただの子どもだったなら。
きっとあの星を見ることはないまま、裏道で惨めに死んでいただろう。だから拾われて兵士になってご飯が食べられて、星を毎日眺められたのは幸せだった。ただ今日は星を降らす人がやって来て、星振りを行った。それだけの話なのだ。綺麗なものに恨みはなかった。
ゆっくり近づいてくる。小さな兵士は眺めている。出水が足を止めたとき、ありったけの力で言葉を伝えた。
「星を……見せて」
出水の息が止まる。
「振る星が……キレイ……だっ……た」
意味を考えているのか、出水はしばし動かなかった。やがて、出水は不敵な笑みを浮かべた。
「いいぜ。よく見てな」
そう言って、出水はトリオンキューブを出して見せた。ゆっくり分割され子どもの周囲を飛び交った。星光が近づいてくる。兵士として生きたその子どもは最後まで星を見つめ包まれながら、短い生涯を閉じた。