文章置き場

二次創作小説を記録しています。原作者、公式とは関係ありません。現在はWTを中心に上げています。R18作品はピクシブのみ。

雨の中の檻(wt太刀出)

今回はTwitterのアンケートで太刀出が上がっていたため、書き始めたのですが行き詰まりウォーミングアップで短めの話を上げました。
どうも私が書くと太刀出はこんな感じになるようです。需要はあるのだろうか。






激しい雨音を室内で聞いていると、まるで置いていかれたような気がすると言っていたのは誰だったか。
感傷に耽るつもりはないものの、太刀川慶はぼんやりと安物の椅子に腰掛けながら思い出そうとしていた。

ここは異界。
今回の遠征は情報収集と交渉がメインだったが、訪れたタイミングが悪く雨季と重なっていた。それもただの雨ではなく、住民の話によると、人間の三半規管を刺激する物質が混じっているらしい。真っ先に体調不良を訴えたのが聴覚のSE持ちである菊地原を始め、船酔いの冬島やオペレーターたちも早々とダウンした。
これでは仕事にならないと風間はボヤきながら薬品類の物質調達に出かけ、全く影響を受けなかった自分は万が一の戦闘に備えて、宿の一角を取り留守番というわけだ。
することがない。暇だった。太刀川はテーブルから地元の酒瓶を手に取り、グラスに注いで口を湿らせた。チョコレートリキュールに近い舌触りがする。甘い。だが、冷えた室内で体を温めるには悪くない味である。
部屋は昼間だというのに雨のせいで青みがかって薄暗く、かといって明かりが必要なほど不便さは感じないので、このままにしていた。どうせ読む本など持ち込んではいなかったし、ベッドで寝ている出水公平を起こしたくはない。
出水は早々と雨の影響で頭痛を訴えた1人だった。彼専用の部屋は用意されていたのだが、雨の音が耳障りで眠れないと太刀川の部屋に逃げ込んできたのが数時間前。今はベッドを占領してうつらうつらと浅い眠りをさまよっている。
いったい何が彼を安心させたのか。太刀川が使っていたベッドに寝かせただけだというのに。
-匂いはほとんど付いていないはずなんだがな
半ば眠気に誘われながら、言葉を思い出す。

出水はある時こう言った。
おれ、太刀川さんの大きな手が好きです。
おれ、太刀川さんの匂いが好きです。
そして最後にこう言った。

おれ、太刀川さんの殺気のこもった瞳が好きです。

そこは欲を孕んだ目ではないのか。
快楽はそこまで求めていないのか。

出水と関係を持ってから回数と時間を重ねたが、行為を迫るのは自分からだった。けれど彼から拒絶されたことはなく、こちらも無理強いはしたことはない。
性欲盛んな10代後半がこんな様子でいいのかと首を傾げてしまう。それともまだ未成年だからと気を使っているのか。自分が彼ぐらいの年齢だった時はどうだったろう。女の子にモテたい気持ちはあったはずだが、その辺りがあやふやだ。
ああ、そうだった。太刀川は酒を継ぎ足しながら漠然と思考する。好かれるという相手からの評価と、快楽を得る手段は別だった。自分を慰める方法ならいくらでも情報は手に入る。
そこまで考えて太刀川は嫌な方向に考えが及ぶ。出水はそれほど自分との行為を重視していないのではないかと。

「うーん……」
横向きに寝ていた出水が目覚めようとしている。何とも呑気で無防備な体たらくに軽く腹が立つ。自分はこんなに悩んでいるというのに。これは惚れた弱みという話なのか。
太刀川はグラスを持って出水に近寄る。案の定気配を察知して出水は猫のような目を開けた。
「おはようございます……」
「もう昼過ぎなんだがな」
「……え、マジですか……」
「頭痛は良くなったか?」
「まだ……何となく……ガンガンします……」
出水は起き上がろうともがくが、毛布すら退かすのも苦労するほどダルい様子。太刀川がかけ直そうと毛布を掴むと出水はその手を取った。
「水……水が……飲みたい……です」
太刀川は思わずグラスを持ったままの手を見た。入っているのは酒だ。水はテーブルにあるが、出水はグラスの中身が水と勘違いしているのか、手を離そうとしない。
「水を取ってくるから、手を離してくれ」
力が緩み、太刀川の手は解放された。出水と目が合う。
ぼんやりとした眼差し、わずかに頬がうっすらと赤い。緩んだ唇はふっくらと柔らかそうな。
太刀川は出水の頭を撫でてやる。好きだと言ったその手で。彼は気持ち良さそうに擦り寄る。

-お前は猫か

呆れてそんな言葉が浮かび、本当にそうかもしれないと思いがよぎる。こっちが主導権を握って可愛がったつもりが、気まぐれに愛着行動を起こして心を揺さぶってくるのは彼かもしれない。
それならそれで、別に構わない。酔わせて溺れさせるだけだ。乱れた思考で太刀川は行動に移した。優位性はこちらが握っている。立場も重ねた年齢も。そもそも好きと言わせたのはこちらだ。
太刀川はグラスに入った酒を一気に飲み干した。そのまま勢いで出水に口づけをする。
「……う、んん……」
すぐさま離れて反応を伺うと、とろりとした眼差しで名前を呼ばれる。
「太刀川さん……未成年に酒は……まずいです……よ……?」

-うるさい、どうせ夜まで誰も来ないのだから酔ってしまえばいい

遠征メンバーの中で酔ってないのは風間を除けば自分だけだ。檻となった雨は夜まで止まず、2人を閉じ込めるというのなら。

「どうせ酔うなら、こっちの方がいいんじゃないか」

出水を仰向けにし、太刀川は覆いかぶさった。そこで意識が覚醒したのか、出水は目を大きく見開いた。
「頭痛、取れますかね?」
「さあどうだか」
「太刀川さんが1番酔いが酷いオチって、風間さんに怒られますよね」
「別に部屋へ入ってくるわけではないから、構わないだろ」
軽口がお互いに飛び出す。現状は戯れのようなやり取り。深く溺れる時が来るのはいつになるだろう。
だが太刀川は知っている。出水の伸ばした両手は自分の背中に回され、そこには始めた頃の初々しいしがみつきはない。刺激を与えるように指先でなぞる動作に変わっていることを。そして、片足が上げられる。慣らして焦らして濡らして入れろと言わんばかりに。

出水公平は笑ってささやく。
「やっぱり太刀川さんの匂いは落ち着く」

-その余裕、いつか崩して酔わせてやる

太刀川慶は軽く舌打ちして、グラスを無造作に床へ放った。割れずに転がるのを一瞥してから、深く口づけを交わす。甘い酒の味に、舌で口内を丹念に蹂躙した。
今この部屋は2人だけのものだった。冷え冷えとした空気の中で、嬌声とベッドの軋む音に濡れて擦れた肉体の熱が加わる。

夜までの時間を頭に入れながら、太刀川は触れながら思った。さて、この強敵をどう陥落しようかと。