文章置き場

二次創作小説を記録しています。原作者、公式とは関係ありません。現在はWTを中心に上げています。R18作品はピクシブのみ。

欲火(wt烏出)

2019/8/26 23:35
とりいずSS、お題用いて書きました。二人がただキスしているだけです。
お題がキスシーンになかなか絡まなくて時間かかりました。
このはの烏出:
図書館でキスをしよう。いけないことをしているみたいとキミは言う。その顔、説得力ないけどね。
#内緒でキスをしよう
https://t.co/Uko4Jk5UAR
烏出で「なるべく早く証を残したかった」とかどうでしょう。
https://t.co/aiQ8icgRxP
↑二点のお題お借りしました。


欲火(よっか)



普段から出水は図書室と縁のない学園生活を送っている。大抵の調べ物はネットで済むし、そもそも彼は読書家ではない。しかしそんな彼が放課後の夕暮れ時、めったに立ち寄らぬ図書室で目的の本を探すのに手間を取っていた。
「図書委員がいねぇから聞けねーし、くそ、どこだよあれは」
左右を見渡し目標となるものがないか、あるいは誰かに聞けないかきょろきょろと見渡す。
歩き回れど、古ぼけて多少匂う本棚ばかりだ。
諦めて明日出直そうか。ふと疲労感とともにそんな考えがよぎる。
その時、見た事のあるもさもさ頭が視界に入った。

「京介? お前何でこんな所にいるんだ?」
「先輩こそ、無縁な場所に何の用っすか」
「無縁で悪かったな。ちょっと気になる本を探してたんだよ。深夜のアニメ化で流行ってて、米屋のやつが面白いって言うから」
「ああ、もしかして」
合点がいった顔をして、烏丸は手に持っていた本の山から一番小さな本を出水に渡した。
「それそれ! タイトルしか知らねーから内容気になってたやつ!」
「それなら先輩に譲りますよ」
「これ俺に譲ってくれていいわけ?」
「構いませんよ。弟がDVD録画して観ているんで、興味があって手に取ったんです。タイミング良かったっすね」
そう言って烏丸はある方向に目を向けた。そこは本棚の一部で、新作文庫本コーナーと書かれた箇所がほぼがら空きになっていた。出水はげげっ、と声をあげる。
「考えていることは皆同じかよ……京介サンキュー。何か礼をしないとな」
「べつに礼はいいっすよ。俺も英和辞典借りるためについでで見つけただけなんで」
「英和辞典?」
そこで出水は烏丸の手元をまじまじと見た。例の流行りの文庫本と、一回り二回り厚みのあるボロボロの本に英和辞典と書かれていた。
なるほど。出水は察した。
「お前辞典買わずに済ますつもりだろ。図書室にあるのは古いヤツだから、載ってない単語があるだろうし、おれのをやるよ」
「え? その通りですけど先輩の分は?」
「親戚から高校生になったからって、新品をもらって余ってんだよ。自分の分は元々あるし。使ってくれると、こっちもありがたい」
出水が両手を合わせると、烏丸は顔を緩ませた。
「ありがとうございます先輩」
「これくらいどうってことねえよ。明日持ってきてやるから」
にこにこしながら再度ありがとうございますと笑う後輩の顔を見るのは心地よい。
それじゃあ文庫本を受け取り、辞典を返却してさて帰ろうかと鞄を取りに行こうとした時、奥の方で音がした。
出水と烏丸は顔を見合わせた。
その方向を覗く。図書室の死角となる場所に男の教師が本棚の整理をしていた。
二人は思わず揃って、神妙な顔つきになる。
余計な用事を押し付けられるとも限らない。さっさと退散しようと離れかけたが。
「誰だ、そこにいるのは」
気配遮断失敗。おずおずと二人は姿を現す。
「そこにいるのは……出水と烏丸か」
「はい、そうです」
出水が渋々答える。
そこで教師は問いかけてきた。
「まだ図書室に用事はあるのか?」
「もうで……」
「いえ、まだ用があるんで」
出水の言葉を遮り烏丸が返答した。
「それなら鍵を渡しておくから、早く用事を済ませて職員室へ返しに来なさい」
そうして鍵を出水に渡し、教師は図書室を出ていった。
後には静寂が残る。ここには出水と烏丸しか残っていない。

「で? 一緒に出れば良かったのになんで用事があるなんて言ったんだよ。鍵返すのめんどーじゃん」
「図書室じゃなく、先輩にまだ用事があったからじゃダメですか?」

えっ? 出水は烏丸をまじまじと見た。その表情はすましたもので。
「久しぶりですよね。二人きりになったのって」
その言葉に、出水は周囲の温度が上がった気がした。無意識のうちにブラウスのボタン二つを外す。
「なんか暑くね?」
出水の頭の中で警戒レベルが上がっている。何か適当な会話でこの場を離れなくては。
なのに、高揚感に近い何かが込み上げてくるのを感じるのは何故だろう。
「もう冷房を切られたみたいですね」
烏丸は涼し気な顔で視線を左右に向ける。
「先輩」
「何だよ」
「単刀直入に言います。キスしていいっすか?」
「は?」
「理由はここに誰もいないからです」
「それ、色気も何もねえな……」
逃げられない事を出水は悟る。後ろは本棚。力と体力差は烏丸が有利。わざとらしくため息をついた。
「もう好きなようにしてくれ」
「投げやりで言われると傷つきますね」
「ワガママな後輩だな。しょうがない、先輩がリードしてやるよ」
出水は両肩を掴んで素早く唇を近づけた。

最初は軽く、ふわりと触れるキス。

「いけない事をしているみたいですね」
「顔に説得力ねーよ。充分いけないことだろ」
出水の言葉に「たしかに」と烏丸はくすぐったそうに笑った。
「もう一度?」
「何度でも……です」
烏丸は出水の頭を打たないように手を後頭部に廻す。互いの吐息を間近に感じ、出水は目を閉じた。
-食べられる。
烏丸の唇が先程より深く重なり、舌が入り込んでくる。互いの舌が触れ合い引っ込めたかと思いきや、強く吸い取り搦めようとする。出水は振り回されないよう息を所々で吐く。両腕を彼の首にかけながら。だんだん現実感が曖昧になり、腰に熱が溜まっていった。
「……んん……」
もう解放されたい。いや、呼吸が保つ限りは離れたくない。
やがて、躊躇うように出水は離される。唇から透明な糸が二人を繋ぐ。出水は挑発するように唇を指先で拭って舐めた。
そこで勢いのついた烏丸は、出水のさらされた鎖骨を舐めて軽く噛み付く。
出水はそこで限界が来て腰が抜け、ズルズルと床にしゃがみこむ。ぼやけた視界で烏丸の様子を見れば、さほど動揺を見せず片膝をつき、端正なすました顔をちらつかせ出水は腹が立つ。

-そっちこそ息を切らし、触れている手が汗ばんで余裕が全く無いくせに。

出水は思わず彼のブラウスのボタンを二つ外し、同じように鎖骨に噛み付いてやった。そこで烏丸は息を飲んだ。噛み付いた跡を舐めながら心が欲して叫ぶ。

-なるべく早く証が欲しい。その身体に証を残したい。もっと、もっと。

わかるだろ? と出水は上目遣いで烏丸の顔を確かめると、喉を鳴らし欲混じりの視線をこちらに向けてきたのがわかった。
そのまま再び体を密着させ、二人は熱の篭った互いの汗の匂いを嗅いだ。

でも今はまだ先までいけない。
図書室の外から、人の声が聞こえてくる。入ってくるなと頭の中の理性がうるさい。
だけどこの行為を止めるタイミングが見えてこない。

キスだけなら、まだ構わないよな? それなら、いくらでもごまかしは効く。
そんな出水の問いに対しキスだけですよと、念を押すように呟き、烏丸は彼の首筋に唇を這わせた。
高い体温とうるさく働く心音を感じながら、二人は噛み付くキスを繰り返した。

誰もいない図書館。
もつれ合う二つの影。

-外から差し込む光はもう薄暗い。



欲火とは欲情の強さを火に例えた語のことです。